2017年4月29日土曜日

葦の地方

   葦の地方

遠方に
波の音がする。
末枯れはじめた大葦原の上に
高圧線の弧が大きくたるんでゐる。
地平には
重油タンク。
寒い透きとほる晩秋の陽の中を
ユーフアウシアのやうなとうすみ蜻蛉が風に流され
硫安や 曹達や
電気や 鋼鉄の原で
ノヂギクの一むらがちぢれあがり
絶滅する。


「ユーフアウシア」=写真、wiki=は、オキアミ目(Euphausiacea)の総称。大部分は外洋性で、成体は一般に200m以深、500m以浅で遊泳生活をするものの、夜間には表層に浮上する日周鉛直移動を繰り返しています。体長は一般に1~5センチメートルで、エビ類に形がよく似ています。胸脚のもとに樹枝状のえらが裸出していることなどから区別されます。動物プランクトンとして重要で、魚類をはじめヒゲクジラ類や海鳥類のえさとなっています。

一方「とうすみ蜻蛉」は、イトトンボ科(Agrionidae)の昆虫で、小型の種類は俗にトウスミトンボと呼ばれます。日本からは27種が知られ、体長約2cmのヒメイトトンボから、体長約4.5cmのオオセスジイトトンボまであり、いずれも湿地,水田,池沼などの停水に育つそうです。

*書いたときの記憶を小野は次のように述べている。
 「詩では、季節が晩秋ということになっているが、それはなにか必然的な力によって記憶を呼びさまされたからであって、実際に書いたのは、昭和14年の元旦の朝であった。まずは書きぞめというところである。わたしの詩の方法は、この作品を転機として改まり、主情的な要素が抑えられて、以後もはやそれは『歌』ではなくなってしまう。日支事変勃発、国民精神総動員法が発令されたのが12年7月、翌13年はさらに国家総動員法である。製作年月日を、いまだによくおぼえているただ一つの詩であるわたしのこの詩が、寒い透きとおる晩秋の太陽の光そのものの記憶よりも、そのときの実感において、もはや不可抗力となった、この人間を追い上げ、しめつけてきたものにつながることは云うまでもないだろう」(『奇妙な本棚』)。
 小野はまた作品そのものについて次のように述べている。「〈葦の地方〉の中で書かれている絶滅するノジギクの群落が、非情の風景の中で可憐なるものが死にたえてゆくさまを歌った、そんな感傷ととられたら、むしろ作者は迷惑だ」。当然のことだ。《安》

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