2017年5月10日水曜日

風景(七)

   風景(七)

高いところで
大きな一枚硝子ががたがたゆれる。
ときどきごうという底唸りを発して
外には風が吹き荒れてゐる。
向ふの葦原や
河口あたりはたいへんだらうに
煙は地平にこもつて動かない。
ふしぎにしづかな下界のながめだ。
ただ建てこんだ屋根々々の狭間に
わづかに赫い地肌をあらはした原つぱがあつて
一匹の犬がそこにゐるのだ。
それはあまりに遠くつて悲しいが
多分投げられたゴム毬かなんかを追つかけるのだらう。
実に愛そのもののやうな
可愛らしい跳躍をやつて
家かげから駆け出し
駆けもどるのが
見えた。


長い家畜化の歴史のなかで、犬はいろんな分野にわたって人間の生活の手助けをしてきました。この犬が、どんな目的で飼われているのでしょうか。

生来、警戒心が強いので、たいていの飼い犬はは知らない人が侵入してくると吠えたてて、番犬の役目を果たします。「建てこんだ屋根々々」のどこかで飼われている、そんなごく普通の番犬でしょうか。

第1次、第2次世界大戦では、シェパード、エアデールテリア、ドーベルマンなどが軍用犬として伝令、偵察、歩哨などで活躍したそうですし、犯人追跡や物品鑑別のために1937(昭和12)年には日本でも警察犬が誕生しています。

*ふしぎにしずかな「葦の地方」のまんなかの一匹の犬が生々と書いてある。「風景」と題するこれらのいくつかの作品には人間があらわれない。「人影なし」だ。それだからいっそう犬の動作が生々としていて、むしろ悲しい。《安》

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