2017年7月31日月曜日

機械化遊戯機具群の中

   機械化遊戯機具群の中

いまごろ
八月に咲く花はなに?
知らない、カンナはいつかしら。
じゃ、あすこで啼いてる鳥、知ってる? そら、きこえるだろう。
知らない、わたし。
なんかな、あの鳥は。
啼いてるわね。
おや、こいつはすごいや。ロケット・スピットファイヤーってんだよ。
あなた、乗れる?
乗れるさ、おれだって。
きっと、あなた、眼をまわしちゃうわ。
あるいはね、しかし、きみ、なにも知らないんだね、自然のこと………じゃ、あの大きな木!
けやきでしょう?
わあ、傑作! あれは椎さ。
椎? あやしいもんだわ、信用しない。
いいよ。おれも思うだけさ、ごらん、オクトパス、たこのあしだってさ、この巨いの。
ロケットがたこのいぼってわけね。鉄のいぼ、真赤だわ。
ぶんぶんふりまわす仕掛さ、きみ、乗れ!
うん、乗ってみよか。
花の名も鳥の名も木の名もなにもきみは知らないっと、弱ったな、じゃ、上を向いて! あすこに光ってる雲! あれはなに?
知らないわ。
巻積雲!
あやしい、あやしい。
じゃ、このビン刷けみたいな草!
あなたも知らないんでしょう。
まて、思いだすよ。
そうら、知らないくせに。
わかった! コウボウムギ。
うそ! よしましょう、もうそんな話。
がらにないか、自然は。おたがいさま。
キッド。ローロープレーン。シークルース。テルト・ア・ホイール、ひねりかご。
ひねりかごとはつけたね。
まるで土木機械みたいだわ。
コニ―アイランドだとさ、ここは。
いいじゃないの。
えらいもの持ってきやがったな、こんなともに。動力をすえて。
そら、またはじまった。あなたのくせ。
manufactured by……なんとか、U・S・Aか。
なによ、こんなもの。
だれも乗るやつがいないじゃないか。
平気、平気、みな乗ってやるわ、わたし。たこのあしだって、ひねりかごだって、なんだって。見てて。
うん、乗れ、おれ、ここで見てる。
ああ、思いだした、夏雲雀よ、ちがう? さっきの鳥。
ひばりかな、八月だぜ。
そうよ、きっと。
まあ、いいや。
 ひばりよ。啼け!


「コウボウムギ」は、海岸の砂浜に群落を作って生えるカヤツリグサ科のスゲの一種で、初夏に太い雄の穂に黄色いおしべが著しくつき、夏から秋には雌の穂の実が熟します。熟した穂が麦の穂に似ていることから、弘法麦と名づけられました。強剛な多年草で、茶色で長い根茎を四方に伸ばします。葉は幅1cmくらいで硬く外側へ反って広がり、葉の中心から出る高さ20cmほどの太い茎の先に多数の花をつけます。

「キッド。ローロープレーン。シークルース。テルト・ア・ホイール、ひねりかご。」なるものがどんな「機械化遊戯機具」なのかはよくわかりません。が、1890年代、米国のコニーアイランドに作られた最初の遊園地の一つ「シー・ライオン・パーク」に、ウォーターシュートが設けられ、1893年には、シカゴ万博の遊興区域に、世界初の巨大観覧車とされるフェリスの車輪(フェリス・ホイール)が設置。1903年の第5回内国勧業博覧会(大阪)では、ウォーターシュートや回転木馬、1907年の東京勧業博覧会には観覧車が登場しています。

「コニーアイランド」=写真、wiki=は、アメリカ合衆国ニューヨーク市、ブルックリン区南端の大西洋に面した7マイル(約11km)に及ぶ砂浜。19世紀の初期からニューヨーク市の金持ちたちの海水浴場となり、やがて豪華なホテル、カジノ、演芸場、アイスクリーム・パーラーなどが建ち並びました。1880年代からはローラーコースター、メリーゴーラウンド、展望車、それにホットドッグ屋などがひしめきあう庶民の一大娯楽場となりました。3.5マイルに及ぶ遊歩道やニューヨーク水族館もあります。

*この作品についての小野の自作解説があるので、それから抜き書きしておく。
「大都会の職場で働いている一人の青年労働者が、たまの日曜日に、同輩の女性(恋人であるかもしれない)を連れて、いろいろな遊戯機具が設置されている遊園地の中を歩きながら、互いにいたずらっぽくかわしている対話なのである」。「対象は二つある。野外の草木のたたずまい(自然の形象)と機械化遊戯機具群(社会的なある状況の形象)だ。この二つの『物』に対する人間のかかわり方を心理的な動きとしてとらえようとしたのがこの詩である」。
「機械化遊戯機具群は、この詩を書いた当時(朝鮮戦争、レッドパージ、砂防法)の日本の社会状況、政治状況のシンボルである。その状況は本質的には今も少しも変っていないが、なんといってもあのころは、アメリカの占領政策の押しつけが、なんらかのカムフラージュもなく露骨をきわめた時代であった。私がなしえたことは、そういう状況にからみ取られている作者の日常を通過するある時間の把握である」(『現代詩鑑賞講座第一巻』角川書店「荒廃の季節とわが詩作」)

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