2017年8月16日水曜日

土讃線の雨

   土讃線の雨

讃岐は 晴
土佐は しぐれ
山の中腹に
県境の標識が立っている。
それもまたたくまにすぎた。
窓の外は
眼のとどくかぎり
台風のあとのように
晩稲が重くたれ伏している。
重なりあって
淡い秋の太陽を浴びている。
上の方から、というとおれの乗ってる列車の上からだが
サッと一団の雀が舞いおり
野面に散開して
消えた。

フロリダのマイアミ空港を飛び立った
ドミニカ航空会社の双発DC3機が
カリブ海を南下している。
低空をヤシの木がかすめ去り
ガタン、ガタンとひどいバウンドで着陸すると
そこはドミニカの首都サントドミンゴのターミナルだ。
カメラを肩にかけた一人の日本人がタラップを降りてきた。
どこかで見かけたことがある男だ。
そうだ、きみは ついこの間
ベトナムのジャングルにいたあの……
よう、またこんなところで!

ふと眼がさめた。
大歩危をすぎてから
小一時ばかりおれは眠っていたらしい。
雨はまだ降りつづいている。
前よりもだいぶはげしくなってきたようだ。
夢の中に現われた男は
それからどこへ行ったか。
ドミニカでは
革命軍が首都の中心街に立てこもっている。
ぐるりを米軍とOAS軍が取り巻いているかっこうである。
とまあおれも海をこえてきた。
鉄条網はないが
県境もこえたのだ。
この旅の終着駅
南国土佐の首都はどうか。
身分証明者は持っていない。
おれを入れてくれるか?
日本人詩人、OK! とくるか?
準急「はまゆう」は
土讃線の雨を突いて
一路カーマニョのバリケードに向って進行中である。
「御免」という妙な名前の駅を
いま通過した。


「土讃線」は、四国地方を南北に横断する鉄道。全長 198.7km、香川県多度津を起点に高知を経て窪川 (高知県) にいたります。1889年多度津ー琴平間が讃岐鉄道として開通し、1906年に国有化。その後、琴平と須崎から延長工事が進められて、35年全通しました。 51年に窪川まで延長。阿波池田で徳島線、窪川で土佐くろしお鉄道と連絡。 87年4月に民営化されました。

1965年には、カリブ海のドミニカ共和国で起きたドミニカ内戦が起こっています。同国では、61年、独裁支配を行っていたトルヒーヨが暗殺され、翌年末に行われた自由な選挙ではフアン・ボッシュが大統領に当選。彼は63年に「ボッシュ憲法」とよばれる民主主義的な憲法を制定したほか、キューバと国交を回復するなど自主的外交政策をとりました。

しかし、63年9月、親米派軍人のクーデターによって追放され、レイド・カブラルに率いられる軍事評議会が政権を握ります。これに対して65年4月24日、ボッシュ大統領の復帰を要求してカーマニョ大佐に率いられる軍人が反乱を起こし、軍事評議会を追放しました。軍事評議会派の軍人もこれに対抗して蜂起しましたが、ほぼ4日間の戦闘で敗走させられます。

そのとき、アメリカのジョンソン大統領は海兵隊の派遣を決定し、総計1万数千人の海兵隊を送り込みました(4月28日)。同時に米州機構(OAS)にも派兵を要請し、ブラジルを中心とする米州平和維持軍がドミニカに上陸(5月24日)。これによって形勢は一挙に逆転し、カーマニョ派は守勢にたたされ、米州機構の仲介で停戦が決定しました(8月31日)。その後、カーマニョは大使として外国に退けられるなどアメリカのペースで政治が進められ、翌年6月の大統領選挙では親米派のバラゲールが当選しました。

「大歩危」(おおぼけ)、「小歩危」(こぼけ)は、徳島県西部にある吉野川の峡谷。高知県側から東流してきた吉野川が四国山地を横断する際、北流して横谷をなす約20kmの間をいいます。ボキ、ボケは山間の断崖地の呼称。この両岸は標高1000m前後の山がせまり、かつてはわずかに小路が通じていました。1935年、川岸に沿って開通した土讃線の阿波川口駅から南に5kmで小歩危,さらに4kmで大歩危となりますが,その間がとくに峡谷美をなしています。大歩危は奇岩や怪石が多く、深い淵があって男性的で、小歩危は岩石の露出が少なく、奇岩も小さく女性的といわれます。

*土讃本線は讃岐と土佐、つまり四国の北側と南側を結ぶ国鉄幹線である。県境に大歩危・小歩危の名勝があり、高知へ入る手前に後免=写真、wiki=という駅もある。雨をついて南国土佐の首都高知に向っている「おれ」は、夢のなかでドミニカの首都サントドミンゴへでかけている。そこでは革命軍が米軍とOAS軍(米州機構軍)に取り巻かれて戦っている。最初15行の目のさめるようなすべり出し。後免という地名にかけたウィッティな結び。まさに小野調ともいえるが、もっとも小野調だというべきは、南国土佐行とドミニカ行とのこの重ならない重なりを重ねてみる作品造型だ。しかもこの作品で小野は重なったまま自ら移動している。この移動感覚が「空想」をしっかりと支えている。《安》

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