2017年8月20日日曜日

いま、この時刻に

   いま、この時刻に

路上に
やせた脛を投げだし
壁にもたれて
眠っているやつがいる。
乞食みたいなそいつも
そいつの前を通りすぎるやつも
みな白い衣をまとっている。
らくだが通ったり
羊の群が通ったり
女が頭の上に大きな籠や甕をのっけて通ったりしている。
竜舌蘭のような植物もうつっている。
太陽直下で
眠っているそいつは
戦車が前を通っても平気だ。
脛を投げだしたまま
いつまでも眠っている。
榴弾砲かなにかの
長い砲身を前に突きだした重戦車が
あとからあとからやってくる。
夢の中にも太陽はあたっているが
やつがいま見てるのは
砂漠の砂の中にいる
黒と白の縞目もあざやかな一匹の蛇。
美しい蛇は
ときどきからだの一部を
砂の上に波うたせて
砂の中を水蛇のようにゆく。
砂埃りの舞い立つ中から
長い砲身を突きだして戦車はなおもやってくる。
砂漠の町には戦車が一ばんよく似合う。
あとからとからやってくる。
だれもおどろかない。
まだやってくる。
まだまだやってくる。
長い砲身を前に突きだして
砂埃りの中から現われる。
けれど眠ってるやつは平気だ。
彼は縞目もあざやかな美しい蛇の夢を見ている。
いつまでもそれを見ている。
おどろくやつなんかいない。
それは太陽と同じこと
それは砂漠の砂と同じこと
みんなかれらのものなのだから。
砂埃りが引くと元の町だ。
白い衣をきた人たちが往来している。
らくだが通っている。
頭の上に大きな籠や甕をのっけた女が通っている。
竜舌蘭のような植物も
まだ見える。


「竜舌蘭」=写真、wiki=は、リュウゼツラン科の大型常緑多年草。メキシコ原産の観葉植物で、鉢植や庭園で栽培されます。葉は根生し、多肉で長さ1m以上になり、縁と先端に硬いとげがあります。花を見かけることはまれですが、花茎は株の中心から5m以上も高くそびえ、黄色い筒状の花を多数つけ、花がつくと全株は枯死します。

アメリカ、メキシコの乾燥地や旧熱帯の森林に生えています。米テキサス州南西部の岩陰遺跡の糞石からは、2800年前のリュウゼツランの一種の花粉や含まれていたシュウ酸石灰の結晶がみいだされています。メキシコではリュウゼツラン類を「マゲイ」とよんで、プルケ、メスカルやその一種のテキーラなどの酒をつくるのに使われています。

「榴弾砲」(りゅうだんほう)は、17世紀頃に一般化した火砲。平射で長距離をねらうカノン砲と、曲射で近距離用の臼砲の中間の砲種として、火砲の基本的な型の一つとなりました。援護物後方の目標を攻撃したり、砲台や軍艦甲板を上方から破壊するのを目的としています。近代以後、口径10cm内外の野戦榴弾砲が戦場で重宝がられるようになりました。日本の旧陸軍では、重、軽の2種類を使い、軽榴弾砲は口径10cm、最大射程1万m、重榴弾砲は口径15cm、最大射程1万5000mだったそうです。

*この作品は前出の「寝汗の世界」と似ているが、ずっと深い魅力がある。「寝汗の世界」の直接的な実在感は否定できないが、観念の世界であり夢の世界であり「空想的作品」であるのだが、この作品は、夢だ夢だととおもいつつ脂汗流してしまうようなところがある。眠っているやつは蛇の夢を見る。眠っているやつのまえを戦車があとからあとから通りすぎていく。いつか、夢の砂漠も現実の砂漠も、蛇も戦車も男も太陽も、時間空間を絶してあい交わってしまっている。小野の云い方をもってすれば、小野はこのとき「路上に/やせた脛を投げだし/壁にもたれて/眠っているやつ」の中へ住みついたのだ。《安》

0 件のコメント:

コメントを投稿